2019年11月から12月にかけて、ネット証券会社の手数料無料化のニュースが次々と報じられました。12月中旬以降、各社の具体的な新料金体制についても、公式リリースが出ています。
ただ、各社が競争相手の発表に合わせて内容を変える状況が続いており、ニュースや公式リリースについても、情報が断片的になっています。
ニュースを聞いた人の疑問
・結局、どの証券会社が一番お得になるの?
・自分が利用している証券会社の変更点と他社の比較をしたい
・そもそも、手数料無料化して証券会社は大丈夫なの?(別の料金がかかりそうで怖い)
そういった疑問に答えられるよう、現時点(2020年1月29日)で各証券会社がリリースしている公式情報をまとめ、比較ができるようにわかりやすくまとめました。
各社の公式ソースへもリンクを貼ってありますので、確認にご活用ください。
投資をはじめたばかりの方にとっては、自分に合った証券会社を選択したり、利用の幅を広げることで投資収益性をアップさせるチャンスです。例えば、1万円の投資で手数料100円払うと収益性が1%悪化します。中長期投資の堅実な収益率が5~8%(※)とすると、少額投資では手数料もバカにはできませんね。
※CalPERS(カリフォルニア州職員退職年金基金)や国民年金基金(国民年金に任意で上乗せする年金)など世界のファンドの実績平均より設定し得る目標利率。利率を保証するものではありません。税引き前の目標利率です『お金を増やす一番知的なやり方』ジョン・ケイ著より
混乱する情報をスッキリさせて、ご自身にあった証券会社選びのお役に立ちますように。
Contents
1.証券会社の手数料無料化のまとめ
1) 新料金体制のわかりやすい比較表
2020年1月29日現在
中長期投資向け 情報 | |||||
証券会社名 | 国内現物株 | 国内投資信託 | 国内ETF | 米国ETF | 特記 |
SBI証券 |
1日50万円まで 売買手数料無料 ※19年12月23日より |
買付手数料無料 ※19年12月16日より |
97銘柄売買手数料キャッシュバック ※20年1月14日より |
9銘柄買付手数料キャッシュバック ※20年1月2日より | 来春システム対応済み次第キャッシュバックから無料化へ |
楽天証券 |
1日50万円まで 売買手数料無料 ※19年12月23日より |
買付手数料無料 ※19年12月16日より |
99銘柄 売買手数料無料 ※20年1月14日より |
9銘柄 買付手数料無料 ※20年1月6日より | |
松井証券 |
1日50万円まで 売買手数料無料 ※19年12月20日の夜間取引より |
買付手数料無料 ※19年12月9日より | ※現発表なし | ※現発表なし | |
岡三 オンライン 証券 | 1日50万円まで 売買手数料無料 | 買付手数料無料 | ※現物株と 同手数料 | ※取扱いなし | |
auカブコム 証券 | 来春引下げ20年中に無料化の方向 |
買付手数料無料 ※20年1月14日より |
90銘柄 売買手数料無料、 単元未満ETFの積立 買付手数料無料 ※19年12月16日より | ※取扱いなし |
単元未満株の積立買付手数料無料 ※19年12月16日より |
マネックス 証券 | ※現発表なし |
買付手数料無料 ※19年12月13日より |
3銘柄 売買手数料無料 ※現行のまま |
9銘柄買付手数料キャッシュバック ※20年1月2日(現地)より |
デイトレード・短期投機向け 情報 | ||||
証券会社名 | 信用取引 (国内株) | 信用取引 (ETF,REIT等) | 買方金利・貸株料 | 特記 |
SBI証券 |
1日50万円まで 売買手数料無料 ※19年12月16日より |
売買手数料キャッシュバック ※19年12月16日より | ・一般信用 買方金利 年2.8% ・一般信用 貸株料 年2.0% (買方金利・貸株料とも1注文300万以上 0%) ※現行のまま |
・夜間PTSの取引手数料キャッシュバック ※19年12月16日より ・来春システム対応済み次第各キャッシュバックから無料化へ |
楽天証券 |
1日50万円まで 売買手数料無料 ※19年12月23日より |
売買手数料無料 ※19年12月16日より |
・一般信用 買方金利,貸株料 年1.90% → 年1.80% 引下げ (買方金利・貸株料とも1注文100万以上 0%) ※19年12月23日より | |
松井証券 |
1日50万円まで 売買手数料無料 ※19年12月20日の夜間取引より | ※現発表なし |
・一般信用 買方金利,貸株料 年1.90% → 年1.80% 引下げ (買方金利・貸株料とも1注文100万以上 0%) ※19年12月23日より | |
岡三 オンライン 証券 | 1日50万円まで 売買手数料無料 | ※国内株信用取引と 同手数料 | ・一般信用 買方金利:年2.8% ・一般信用 貸株料:年2.0% | |
auカブコム 証券 |
売買手数料無料 ※19年12月16日より |
売買手数料無料 ※19年12月16日より |
・買方金利引き上げ 制度信用取引:2.98%⇒3.98% 一般信用取引:2.79%⇒3.79% ・貸株料引き上げ 一般信用取引(長期):1.50%⇒2.25% 一般信用取引(売短):3.90%⇒5.85% ※19年12月18日より ・品受/品渡に関する事務手続き料(新設) ※19年12月16日より | 品受/品渡に関する事務手続き料(新設)の料金については公式サイトをご確認ください |
マネックス 証券 | ※現発表なし |
売買手数料キャッシュバック ※19年12月9日より |
・一般信用 買方金利:年利 3.47% ・一般信用 貸株料:年利1.10% ※現行のまま |
※掲載の内容については誤情報がないよう注意しておりますが、ご利用の際は必ず各証券会社の公式情報をご確認ください
《情報元一覧》
SBI証券:
12/16(月)から始まる!SBI証券の無料化&プライスダウン
楽天証券:
いちにち定額コース、50万円まで0円!「いちにち信用」の金利・貸株料を1.80%に引き下げ!
国内ETF99銘柄の取引手数料が完全無料!さらに、米国ETF9銘柄の買付手数料も完全無料!
松井証券:
株式取引の手数料無料枠を拡大します ~現物取引・信用取引の手数料が1日の取引金額50万円まで無料に!
株式取引にかかる手数料および金利等の改定について
auカブコム証券:
auカブコム証券爆誕!すべてのひとに資産形成を
信用取引の取引手数料・金利・貸株料・事務手続き料の変更についてご説明
新生「auカブコム証券」誕生記念!! 「ベストプライス宣言!」 第5弾:フリーETF取扱銘柄拡大
マネックス証券:
すべての投資信託がノーロード(申込手数料0円)に
投資信託も!ETF・REIT等の信用取引も!実質0円!
バンガードなど米国ETFの買付手数料を実質無料に!
2) 手数料無料化におけるポイント
ここからは、上に掲載した比較表におけるポイントや注意点を解説していきます。
1日定額プランと、注文毎に手数料がかかるプラン
多くの証券会社で料金プランが大きく2つ用意されています。今回の手数料無料化では、各社の1日定額プランが対象となっています。
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1日定額プラン
1日の売買金額の合計によって段階的に手数料がかかるもの。「買い」だけではなく「売り」注文の金額も合計されることに注意です。今回の手数料無料化では4社が、現物株や信用取引の1日の売買金額「50万円」まで手数料無料となりました。 -
注文毎に手数料がかかるプラン
1注文の金額によって手数料がかかるもの。定額プラン同様に「買い」だけではなく「売り」注文に対しても手数料がかかります。
各社の手数料プランの比較については、こちらの記事もご活用ください。
関連記事:株初心者におすすめのネット証券会社-わかりやすい比較-
投資はじめての方や中長期投資をメインにしている方は、頻繁な売買を行わないため1注文毎に支払うプランの方が今まで安かったと言えますが、今回の新料金体制で状況が変わりました。
投資はじめての人は、1回の注文が50万円を超すことがほとんどありません。また、中長期投資もドルコスト平均法(※1)を狙って1注文の金額がそこまで高額になりません。
1日の売買金額が50万円以下の投資家は、証券会社によっては1日定額プランで手数料が無料になるため、プラン変更や証券会社の変更を検討する価値があります。
※1 ドルコスト平均法:少しずつ定額で株や投資商品を買付ける手法。価額が安いときにたくさん買い、高いときには控えめになることで収益性が向上する
ただし、「単元未満株(※2)」については、別途手数料が設定されているため今回の手数料無料の対象になっていません。
※2 単元未満株:日本企業の株式は、通常100株単位で取引がされます。100株未満(1~99株)で取引されるものを単元未満株と言います。
国内投資信託の買付手数料無料
注意する点は、無料になるのは「買付手数料」であることです。投資信託には他にも次のような手数料があり、それらは今まで通りに支払う必要があります。
・信託報酬
運用維持にかかる費用で、保有額に応じて年率で支払う。
・信託財産保留額
投資信託の解約時には資産を売却して解約者に代金を支払いますが、売却かかる費用など
・解約手数料
解約にかかる事務手数料など
人気のある投資信託では、もともとノーロード型(買付手数料無料)ものが多く、どちらかというと「信託報酬」の安さが大事なポイントになります。今回の無料化の影響は少ないと考えます。
中長期投資におすすめできる投資信託の条件については、こちらの記事もご活用ください。
関連記事:おすすめの投資信託の選び方、失敗しない証券会社の選び方
国内ETF、米国ETFの手数料無料化
中長期投資では、インデックス投資(※3)をメイン運用するため、それらの銘柄を多く揃えるETFの手数料無料化はとても有益になります。
※3インデックス投資(パッシブ型ファンドへの投資):代表的な株価指数を追従するように運用されるファンドへ投資すること。代表的な株価指数には、日経平均やアメリカのS&P500などがある。
証券会社によっては、手数料無料になる銘柄数の多さをアピールしていますが、自分が運用している(又はこれから買いたいと思っている)銘柄が無料であるかが大事です。人気のあるETFについては、各社が無料の対象としているため大差はありません。
また、投資信託同様に「信託報酬」や米国ETFの「売却手数料」は無料にならないため、注意しましょう。
ETFについて詳細を知りたい方は、こちらの記事もご活用ください。
関連記事:ETFのポイント→ETFとは株式と投信のいいとこどり
信用取引における「買方金利」「貸株料」について
今回の手数料無料化では、信用取引(※4)についても無料の範囲が広がります。これには信用取引の機会を増やして、それにかかる金利や貸株料による収益増加を期待している側面があります。
証券会社によっては、金利や貸株料の値上げ、信用取引にかかる新たな手数料を設定している場合もあるため、よく確認するようにしましょう。
※4 信用取引とは?
信用取引口座の現金を保証金として、保証金の3.3倍の金額まで株式売買が行えるもの。現物株を保有していなくても、証券会社から株を借りて売却し、後で現物株を買って返す「空売り」が可能。デイトレードや短期的な投機で利用されることが多く、中長期投資には向いていません。
2.これから口座を持つ人におすすめできる証券会社
各証券会社の新しい料金体制が発表になりましたが、業界の変化はまだはじまったばかりの「過渡期」と言えます。
これから口座を作ろうと思う方は、将来も見据えて長く付き合っていける証券会社を選びたいですね。また、この節目にご自身が払っている手数料を見直して、用途に合わせた証券会社の利用を検討するのもいいかもしれません。
次からは、私が実際に利用している証券会社から、今回の手数料無料化を踏まえておすすめできるものを解説していきます。
・SBI証券
ネット証券の最大手です。取扱い銘柄も国内・海外株、投資信託も合わせて不足を感じたことがありません。どこにしたらいいか迷った場合は、SBI証券を選択すれば、間違いがありません。
手数料は従来から最安値水準でしたが、今回のリリースによって、国内株1日の売買金額の合計が50万円までであれば手数料が無料になりました。国内ETF売買手数料無料、海外ETF9銘柄の買付手数料無料も、中長期投資家にとっては嬉しい内容です。
ますます、利便性が高まり、おすすめできる証券会社です。
SBI証券の特徴やメリット・デメリットなど詳細については、こちらの記事もご活用ください。
関連記事:SBI証券の特徴、メリット・デメリット
・楽天証券
楽天証券は、SBI証券同様に「国内株1日の売買金額の合計が50万円まで手数料無料」や「国内ETF売買手数料無料」「海外ETF9銘柄の買付手数料無料」になります。
SBI証券との差別化の最大の特徴は、どんどん溜まっていく楽天ポイントのお得感です。
毎月決まった額を購入する「投資信託の積立」(積立投信)に、楽天カードを使用するとさらに還元率が高くなります。
投資信託の運用をメインで考えている人におすすめできます。
楽天証券のメリット・デメリットなど詳細については、こちらの記事もご活用ください。
関連記事:楽天証券の特徴、メリット・デメリット
・SBIネオモバイル証券
SBIネオモバイル証券では、手数料無料化について現時点で何も公式リリースはされていません。ですが、従来より『手数料の月定額制』という独自の料金体制を持っています。
・国内現物株式の売買 月間総額50万円まで → 手数料 月定額200円(税抜)
・期間固定Tポイント → 毎月200ポイント還元
・単元未満株の売買手数料も月定額料金に込み
上記によって、月間の売買総額が50万円までであれば実質手数料ゼロ(消費税分は支払い)になります。今回、他社の「日額50万円まで手数料無料」と比べると見劣りすることになりましたが、特徴の一つである「単元未満株の手数料も実質ゼロ」(現物株を含む月間売買50万円までに含む)は大変有用です。
今回の手数料無料化では、「単元未満株」の売買手数料について据え置きの証券会社がほとんどのため、SBIネオモバイル証券の利便性は変わっていません。
SBIネオモバイル証券のメリット・デメリットなど詳細については、こちらの記事もご活用ください。
関連記事:SBIネオモバイル証券の特徴、メリット・デメリット
・GMOクリック証券
GMOクリック証券も今回の手数料無料化の話題にはなっていませんが、従来より他社にはない大きな特徴があります。
それは、企業の財務状況や経営状態を直感的に把握できるツールがあることです。これによってちょっと面倒くさい「ファンダメンタル分析」を簡略して行えることです。
【企業業績推移】

売上高、営業利益の5~10年間の推移や、営業利益率も視覚的にわかります
【バリュー分析】

株価の割高・割安の目安についても分析されています
【企業比較】

同業種の企業比較もできます
※各画像に使用されているデータはGMOクリック証券から引用です
紹介した他にも企業の財務諸表や経営分析の結果が視覚的に表されています。手数料の安さだけではなく、提供ツールの使い勝手なども考慮すると、GMOクリック証券に口座を持つことは損にはなりません。用途に合わせて複数の口座を使い分けるのもいいですね。
GMOクリック証券のツールについて具体的な使用例にご興味のある方は、こちらの記事もご活用ください。
関連記事:株初心者でも実践できるファンダメンタル分析を簡単にするやり方
3.まとめ 証券会社の収益化の手段は変化していく
今回の各証券会社による手数料無料化の波は、以前よりアメリカで同様の動きが起きていたものが、日本にも波及したものです。
記事の冒頭でも「手数料を無料化してしまって、証券会社は大丈夫なの?」と書きましたが、証券会社の収益化の手段が変化したことによります。
手数料の無料化によって、
・デイトレの信用取引の機会を増やして、金利と貸株料で収益化
・ライト層を取り込んで、投資アドバイス、ロボアドバイザーなどで収益化
などへのシフトがはっきりしてきました。
また、証券会社によっては企業目標のKPI(重要管理点)に、顧客の収益率向上をあげています。証券会社も投資家も互いに「ウィン・ウィンの関係」を目指すことを掲げ、厳しい金融業界で生き残りをかけたアピールをしています。それだけ手数料が、個人投資家の収益に与える影響が大きいということでもあります。
「無料」と聞くと何かあるのではないかと身構えるのは健全な反応ですが、ちゃんと仕組みや、業界の背景を理解したうえで利用すれば安心ですね。
この記事のまとめ
1.手数料無料化のポイント
・各社1日定額プラン「売買金額50万円まで無料」に注目
・信用取引における「買方金利」「貸株料」の値上げや新たな手数料に注意
・投資信託は「買付手数料」が無料。信託報酬などはかかるので注意
・国内ETFの売買手数料、米国ETF買付手数料が無料になる証券会社も
2.これからおすすめできる証券会社
・SBI証券
1日定額プラン&ETFなどの手数料無料の範囲拡大
(→ SBI証券の解説記事はこちら)
・楽天証券
投資信託の運用で楽天ポイントどんどんゲット
(→ 楽天証券の解説記事はこちら)
・SBIネオモバイル証券
単元未満株の売買も月間50万円までなら実質無料
(→ SBIネオモバイル証券の解説記事はこちら)
・GMOクリック証券
企業分析ツールがとても便利
(→ GMOクリック証券のツールを活用した企業分析のやり方)
3.手数料が無料になる仕組みや背景を理解したうえで利用すれば安心